ヨーロッパ人と日本人が共に働く日系企業では「情報の共有と報告」への考えの 違いがしばしば摩擦の原因となります。下記は少し極端ですが、このことがどれ程深刻な事態を引き起こし得るかという本当にあった例です。
オランダの日系企業が初めてヨーロッパ人CEOを迎えました。(それまでのCEOは全員日本人でした。) この人物(ここでは Johnと呼びます、)はそれまでアメリカ企業とヨーロッパ企業でしか働いた経験がありませんでした。彼が発令されたとたん、この会社から日本の本社へ伝わる情報量が激減するようになりました。本社と、オランダ社で働く日本人駐在員は常にJohnに情報を共有するよう依頼しなくてはならなくなりました。
彼らは、Johnが現在具体的に何の仕事をし、なぜもっとオープンにできないのかが理解できませんでした。Johnは会社の対応をmicromanagement(極端に細かく管理されている)と受け止め、どんどんフラストレーションを溜めるようになっていきました。
「(営業の)結果は出している。数字が良いのだからほっておいてくれ!ヨーロッパの市場は私が熟知しており、私の着任後シェアが伸びている。」
しかしJohnと本社の関係は悪くなる一方で、最終的にJohnは職場を追われてしまいました。 この事例は、情報の共有と報告に関して、日本とヨーロッパで期待される程度の差を如実に表しています。他人に依存せずに働くことに慣れているヨーロッパ人にとっては頻繁に報告を求められたり、常に何をしているかチェックされたりするのはmicromanagementと感じられます。ヨーロッパでは特に出世して上の階層に行くほど、より一層の自治を求めるのです。
もしこのCEOがヨーロッパ人でなく日本人であれば、求められなくても自動的かつ定期的に本社へ報告書を送っていたでしょう。
日本には報・連・相(ホウレンソウ)という、報告・連絡・相談という3つの言葉から作られた重要な言葉があります。 会社に入った途端、日本人は常に報告・連絡・相談をするよう叩き込まれます。 新入社員教育でも大変重要なこととして教えられ日々の仕事の中で当たり前のことである為、CEOにすらこれを求めるようになるのです。
日本人とヨーロッパ人の間の誤解を減らす為、情報の共有に関するその他の文化的相違に ついて説明します。
集団主義と個人主義 (Group vs. Individualism): 常に自分たちを「グループの一員」として 考える傾向にある日本人は、情報を大勢の人々と頻繁にシェアしたがります。(日本人が仕事のメールを打つ時のCCの数を見るとこのことが良くわかります。)
日本人の職務内容と責任の範囲は非常にあいまいで、Job description(職務記述書)すら存在しない会社も多いです。逆に個人主義的なヨーロッパでは 職務と責任がセグメント化されていて、 スタッフが全員明確なJob descriptionを持っている為、同僚が何をしているかを気にする必要があまりなく、情報を多くの人とシェアする必要はないと考えます。
また自分に関係のない仕事のメールのCCには入れて欲しくないと考えます。 ボトムアップ対トップダウンヒエラルキー (Bottom-up vs. Top-down hierarchy): ヒエラルキー(階層)に関する意識は、ヨーロッパの国同士でもかなり違うものの、(オランダはかなり階層意識が低く、フランスは高く、ベルギーはその中間など、) いずれも「トップダウン」という意味では一致しています。スタッフは一般的には上司からの指示があるまで何もせず、報告も上司から依頼されてからします。
上司は仕事の状態や進捗状況を知りたければスタッフに聞かなくてはなりません。
日本では、逆に「ボトムアップ」ヒエラルキーであるため、スタッフは上司が聞くまでもなく報告を上げて来ます。 過程対結果 (Process vs. Results) : 日本と違ってヨーロッパではあまり過程を重視されず、業務が終了した時点(「結果」の時点、)または自分達で解決できない問題が起こった時のみ報告することが多いです。日本では、全てのスタッフが上司に対して業務の全課程を通じてフォーマル又はインフォーマルな形で 進捗状況(過程)の報告をすることが一般的です。
アドバイス:
日本人の皆様へ: ヨーロッパ人にとって報・連・相は自然のことではないので、日系企業にとっていかにそれが重要かを説明しましょう。自分自身が自然にスタッフと情報を共有することを実践すれば、彼らもだんだん慣れて同じようにするようになるでしょう。 またできれば、CCに入れる人の数を減らすようにしましょう。その仕事に直接関わっていない人などに、CCに入れて欲しいかどうかを尋ねて人数を絞るというのも方法です。
ヨーロッパ人の皆様へ:日系企業で働くヨーロッパ人は報・連・相のコンセプトを理解し、できる限り情報をオープンにし、上司に頻繁に報告しましょう。(フォーマルな報告書の形でなくても、お茶を飲みながら今何をやっているか話すだけでも大丈夫です。)
このような心がけは上司とあなたの強い結びつきにつながります。ホウレンソウを忘れないようにしましょう!